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大家さんの温かい心
賃貸暮らしと大家のはなし大体が不動産屋さんが仲介のかたちで
家賃などを管理するため、
大家さんと直接接する機会は
少なくなりましたが、
わたしが初めて就職したころは
まだ大家さんと店子、という関係が
濃かったころでした。
わたしが社会人として一歩を踏み出すのに
決めたアパートは、とても古いアパート。
しかもアパートのとなりが大家さんの家
ということもあって、
物件契約のときも、お盆やお正月も
かならず手みやげ持参で挨拶するような
親戚のようなつきあいが始まりました。
大家さんもいばっている風でもなく、
「元気かい」
「がんばってるね」
「めし、ちゃんと食ってるか」
と、顔を合わせるたびに声をかけてくれるのでした。
最初はうっとうしく思っていましたが、
いつしか慣れて、父か祖父のように思うように
なっていました。
その冬に、インフルエンザになってしまった
わたしは、何日も部屋で寝込んでいました。
姿が何日も見えない、と思ったのでしょうか、
大家さんは部屋を訪ねてくれました。
そして
「これ食って元気、出しな。」
と真っ赤なリンゴを差し出したのです。
わたしが風邪を引いて寝ていた、と言うと、
なーんか、病気してんじゃないかと思ってたんだ、
と、大家さんは言い、また引き返して、
今度はリンゴの皮を剥いて、
すぐ食べられるようにして
持ってきてくださったのです。
大家さんの温かい心と真っ赤なリンゴ。
今でもわたしはリンゴを食べるたび、
このことを思い出します。